2010年02月04日

Open Accessと非営利学術出版

論文がJ. London Math. Soc.に受理されたのですが、お決まりの"Copyright Transfer Agreement"が少し変わっていて、Open Accessにする、という選択肢がありました。これを選ぶと、論文はCreative Commonsのライセンス (Attribution Non-Commercial Licence)に従って公開される事になっています。ただし、そのためには約20万円ほどの投稿料を払う必要があります。このような選択肢を与える、というのは面白い考え方ではあります。機関で払える場合は、Open Accessにするのは、公共の費用でなされた研究成果を誰にでもアクセスできるようにする、という観点からも良い事の様な気がします。

一方、"Analysis and PDE"を出版しているバークレイのMathematical Science Publishersは非営利の出版団体で、低価格で学術雑誌を出版する事を目指して運用されているようです。実際、かなり購読料は安く、これからの「学術出版のあるべき姿」を指し示しているような気もします。

2010年02月03日

数学のアウトリーチ

最近、New York Timesに、Steven Strogatzという人が、数学に関するコラムを書いています。数学のアウトリーチ活動に関しては、有名な人らしいです。文章もうまいし、こういう大新聞に、数学者がコラムを書くというのも、ポジティブな印象があります。なかなか面白いです(感心しました)。

2010年02月02日

信号のコスト

 進化心理学の大きなテーマのひとつは、生物のシグナル(典型的には、いつも挙げられる雄のクジャクの羽)が、どのように発達したか、という事のようです。現時点で有力な説明は、そのようなシグナルを発する事の出来る個体が、ほかの個体よりも優位である、という事を示すために発達したという仮説のようです。そのシグナルが有効であるためには、ほかの個体に真似をすることが困難でなければいけない、すなわちコストが高い必要がある。そのようなコストを担うことの出来る優位な個体であることを、そのような有効なシグナルは示している、という説明です。これは、コストを支払う事により優位性を下げる、という矛盾を孕んでいるわけですが、それでも、この説明が最も有効と考えられているらしいのです。ここでは、「コストの掛かっているシグナルのみが有効である」と言う、ヴェブレンに遡るアイデアが実証されています。
 このような「シグナルのコスト」という考え方は、一般的なコミュニケーションについても有効かも知れません。現在は、「情報は無料になる」という考え方が主流になりつつあるようですが、まったく違った側面です。つまり、情報が有効であることをアピールするためには、その情報の発信にコストがかかっている事が大切なのかも知れません。例えば、テレビなどのマスメディアは、その発信に大きなコストがかかっていること自体が、その情報の意味を高めている、という訳です。また、書籍の情報が、ネット上の情報よりも信頼性がありそうに見える、特に大手の出版社からのハードカバーであれば余計に、というのは、その発信コストの高さに由来するのかも知れません。このような事は、普通は「ブランド」や、伝統的な権威意識で説明されているように思いますが、そうとも言えないように思います。例えば、出版社の、いかにも安手に作られたウェブページに掲載された情報が、その出版社の書籍と同じだけの信頼性を持っているとは、誰も思わないでしょう。
 ウェブでの情報発信のコストは、限りなくゼロに近くなっています。そのため、そこで発信される情報の量は爆発的に増大している一方、個々の情報の平均的な有効性、意味は限りなく小さくなってきているように思います。Googleなどの検索は、それらの中から有効な情報を拾い出す手段を標榜している訳ですが、実際上は、それほどうまく機能しているようにも思えません。そのようなジャンク情報から意味ある情報を区別するために、「発信コスト」を反映するしくみも考えられるのかも知れません。

2010年01月24日

ファイルの追加

 ほかの場所に書いた文章を、少し追加しました。

2010年01月19日

電子本の価格

 最近、電子書籍の話題が、いろいろなところで盛り上がっているようです。ひとつの焦点は、もちろんアップルのタブレットなのでしょうが、New York Timesの有料化や、日本でも対抗する協議会ができたりして、様々な動きが見えています。
 僕は、書籍やオンラインサービスに料金を払うのに、あまりためらわない人間で、電子書籍の潜在的に有望な顧客だと思います。しかし、ほとんど電子書籍を買ったことはありません。App Storeで試しに買ってみたことはあるのですが、実際読みたいと思う本も少ないし、決して読みやすくはないし、携帯性のメリットはあるにせよ、現時点では、あまり現実的ではない、という印象を受けました。「電子書店」では、それなりに多くの本が売られていて、買って読みたいと思う本もあるのですが、だいたいフォーマットが(国産、特にシャープの)携帯電話かWindowsでしか読めない(しかも、XPまでだったりする)ので、買う意味がほとんど無いように思います。
 しかし、何より問題なのは、価格が(買い手から見て)高すぎることです。出版社側の立場として、紙の書籍以下の価格では売りにくい、という事情は理解できます。しかし、買い手の価値から考えると、紙の書籍の(少なくとも)半額以下でないと、電子書籍は売れるようにならないだろうと思います。売り手から見ると、データを手渡すと未来永劫利用される、と思うのかも知れませんが、現在のように閉じたフォーマットで読む書籍の寿命は、たかだか数年だろうと思います。ほとんど読み捨てにせざるを得ません。読みにくくて、利用期限が(実質的に)短くて、価格が高く、購入手続きが面倒、とデメリットが揃うと、「誰が買うのだろう?」という感じになります。僕ですらもそう思うのでは、購入者の数は極めて少ないでしょう。
 音楽の流通に関してMP3、iTunesが成功したのは、不法コピーの流通よりも、オープンなフォーマット(実質的な利用可能な期間の長さ)と適切な価格設定が主な理由だろうと思います。AmazonのKindleも、価格は一般の書籍よりもかなり低く設定しているようです。フォーマットはクローズドだし、それほど大成功というわけでもなさそうですが、そこそこ成功しているのは、その品揃えとともに適切な価格設定があると思います。
 これからの日本の電子本の動きには注目したいと思っているのですが、その成否の鍵は価格設定にあるのだろうと思います。文庫本を一冊200円均一で販売、なんて事になれば、一気に広まる可能性もあると思いますが、一方、本と同じ価格になれば、(たとえオープンなフォーマットであったとしても)全く売れない、ということになるだろうと思います。
 電子本が一般化すれば、いろいろ便利なこともあるだろうし、期待したいとは思うのですが、さて、実際はどうなるのでしょうか?
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